見てない夢の話

就活中。改札を出たら、辺り一面、絵に描いたような荒野だった。

荒野って言っても具体的には絵でしかしらないから、絵に描いたような荒野以外はしらないんだけど。
そんなこと、ここではどうでもいい。

まあ、あえて具体的に言うならあれだ。そう。鳥取砂丘
あれは荒野じゃないよ、砂漠だよ。
どっちでもいいよ。
要は何にもないってことだよ。

改札の、向こう側は普通の駅。階段あがった先からは電車の音。がたんごとん。
改札出たら荒野。びゅーびゅー風が吹いてる荒野。

うーん。スペクタクル。言うてる場合か。

で、ワイシャツ姿のサラリーマン達は降りるなり、ぞろぞろぞろと何の疑問もなく、同じ方向に歩いていく。

なんだろうと思って、歩いていく先を見ると地平線。
そこに一本飛び出ている塔のようなもの。

ていうか塔。黒い一本の垂直に伸びた塔。

誰もがそれを目指しているらしい。

仕方なく近づく。流れには逆らえないだろ?

まわりを見ると、どうやら人の流れは、さっきまで自分のいた駅からだけではないらしい。サラリーマン達はあらゆる方向からやってきている。

そしてある一点。あの塔を目指している。

塔に近づいて足がすくんだ。
そこには色とりどりのサラリーマンがくんずほぐれずして群がっている。
押し合いへし合いっていうか。人の山。
サラリーマン達は押すだけじゃなく、のっかる。他人を踏み倒して先に進む。踏みつぶされた人が重なりあい、小高い山となる。
その上でサラリーマンはまた、さらにとっ組み合って、相手の頭に手をかけて、先に進む。
そうやってサラリーマン全体が動く山と化している。

山は中央にある塔を中心として大きく、ゆるやかに俺を見下ろす。

ああ、あれだ。あれ。子供のころよくやった棒倒し。
あの、崩す前の砂山そっくり。

まん中までたどり着いたサラリーマンはさらに塔をよじのぼる様子。ずるずるずるとよじ登る。
それにあわせて視線を上げていき、目をこらすと頂上には一人のサラリーマン。
サラリーマンは手を天高く突き上げている。

勝利のポーズか?

ここに至ってやっとそばのサラリーマンに尋ねた。

「あの人は何をしているのですか?」

「ああ、あそこしか、携帯の電波がこないんですよ。」

言われて自分の携帯を確認する。当然圏外。
ああ、なるほど。あのてっぺんで勝利のポーズを撮っているおっさんはメールを送っているのか。
勝利者しか打てないメール。あそこまでしてでも打ちたいメール。
あるある。

あの頂上でしか、電波は届かないなら、携帯を使うためにはあの塔を昇らなければならないな。
そりゃあ、サラリーマンも群がるね。得心。得心。

・・・・・・ってなんてこった。
オレは今日、1社から内定の通知をもらうはずなのに。電波が届かなかったら通知がこないじゃないか。将来がなくなるではないか。
なんてこった。こいつは困った。
オレもあの塔を必死になって昇らねばならないか。ならないな。ならないとも。・・・ならないのか?
思ってる間にも悩んでいる間にも後ろのサラリーマンはアグレッシブに攻めてきて、オレの肩に足をかける。
つぶされるオレ。

眼の前に広がる地獄絵図。その向こうにそびえたつバベルの塔勝利者の、天高く突き上げる腕。山に飲み込まれていく俺。

そしてつぶやく。

「夢ならさっさと醒めてくれ。」











思ったら目が覚めた。昼の二時。
目が覚めてから気付いた。いやいやいや、内定の通知なんかねえよ。ばか。
いやいやいや、スーツなんか着ないよ馬鹿。

無職は無職らしく、昼過ぎに朝飯を食った。食って糞してまた寝た。